2010年03月10日 00:00
「おや、南央ちゃん。どうしたのかね?」
その表情は柔らかく見えるが、目つきだけは厳しかった。水無をどうも試しているようだ。
「こんにちは、福江さん。今日もいつものお願いできないですか?」
「用途によるのだが、どういったことで使うのかね?」
「執筆作業に使うのよ。いいでしょ。最初に見せてあげるから、サービスしてくださいね!」
少し思案して、福江は自分の後ろにある扉を開ける。そして、水無について来いと促すのでした。
「和馬いるか?今から少し私は店の奥に行くから、店番を頼むよ。ほら行くよ、南央ちゃん。」
そして扉から若い男の人が出てきたと同時に、福江は水無と奥に進むのでした。行き着いたのは小さい何の変哲もない畳部屋であった。そこにはテレビも家具のほとんどない。あるのは中央にある高そうな低いテーブルだけだ。そして福江は改まって尋ねる。
「さて、南央ちゃん。今回はどんな厄介ごとに首を突っ込む気?ホントに勤勉でご苦労なことです。私ゃ、よく分かりませんねぇー。《聖域》を使うようなことということは上層部には知られちゃまずいことかね?」
「さすが『七色』福江ヨシさんですね。今回は、そうです、上層部の秘匿データを少し拝借してきました。おそらく、理事長にはバレバレでしょうが、上層部の理事ではばれてないでしょう。」
「元『七色』よ。まあそういわれるのも悪くないがね。さて、機密情報の流出はだめなのではないかね。しかも最高機密となれば、あなたを気にくわないと思う理事の格好の攻撃材料になるじゃろ?」
「今回はいつもより無茶をしました。正直佳奈子の失態に疑問を持ちまして、無茶も承知でこんなことをしたわけです。ちなみに少し見ましたが、かなりまずいことになっているようですね。」
「それだけでないじゃろ?私の勘だと南央ちゃんのところの和子さんの後任の『絵師』がらみだろう?詳しくは知らんが、どうも推薦したのは南央ちゃんとプジュルだと聞いたからね。よっぽど大事なんだろうね。」
「それでも私を『七色』に推薦したのは紛れも無く福江さんですがね。それは逆にどういった理由で?」
「質問を質問で返してはいけないと何度も注意しているが直らんね、あんたは。まあいいじゃろ、理由は和子さんが言ってたからでいいかのう?私に何かあったら『七色』に南央ちゃんを推すようにと。それが理由じゃな。結局、和子さんがいなくなった席に入れることが叶わなかったから、私は席を辞し、南央ちゃんに譲ったのじゃよ。」
「・・・。」
水無は無言だったが、どうにか口を開いて言う。
「・・・守るためです。〈無限の大海〉を、和子さんを、そして美和ちゃんを。それを言えば察していただけるでしょう、元『七色』銀の座・福江ヨシさん?」
少し目を細めて、軽く柔らかい笑みを浮かべて言う。
「そうかのかのぅ。分がったよ、今は聞くときではないのだね。そのときが来たら話してもらうからのぅ。それでは好きにお使い。」
そして福江はその部屋を出て行くのだった。一方、水無は右手に水晶を持って何か呟き、たくさんの光で部屋が溢れるのだった。
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